「組織ラジオ#006」では、人事異動をテーマに語り合いました。
ぜひお聞きください。
ラジオの中で人事異動には「会社にとっての意味」と「社員にとっての意味」の二つの視点があるという話がありました。
ラジオでは「個人にとっての意味」がメインでしたので、ブログでは「会社にとっての意味」に触れてみます。
【会社にとっての意味】
①事業戦略に沿った戦略的「人員配置」
②社員に経験を積ませる「人材育成」
③マンネリを打破する職場の「活性化」
④新しい人の目で業務を再構築する「業務改善」
⑤上司・部下などの相性を考慮した「人間関係」
会社にとっては、この5つぐらいの意味があるのではないかと思います。
一番の目的は①の戦略的人員配置にあると思いますが、これについて今回は4つのことを取り上げたいと思います。
・適所適材
・人事データベース
・シミュレーションと効果検証
・少数が精鋭を作る
1.適所適材
これまでは「適材適所」という順番で語られることが当たり前でした。
その人の能力・性質をよく把握して、それにあてはまる地位や任務を与えること。
人(人材)が先にあり、その人を適する場所(能力を発揮できる場所)に配置するという考え方ですね。
それに対して、このところ「適所適材」という言葉を目にするようになりました。「適所適材」は職務が先にあり、その職務内容や求められる資質を明確にして、それに合う人材を配置するという考え方ですね。
4月30日の日経新聞に『オリンパス、「適所適材」で高度プロ集団つくる』という記事が掲載されました。
その記事の中で、同社の人事担当の徳升知来部長は「本当に必要なポジションだけを作り、そこに最適な人材を充てる。(適材適所ではなく)『適所適材』を浸透させたい」と語っておられました。
この言葉は「適所適材」の定義を非常に分かりすく短く話していると思うんですね。
冒頭の「本当に必要なポジションだけを作り」の前に「戦略上」という言葉がつくと理解したほうがよいでしょうね。
「戦略上本当に必要なポジションだけを作り、そこに最適な人材を充てる」
わざわざ「必要なポジションだけ」と言っているのは、これまでは「人に合わせて必ずしも必要ではないポジションを作っていた」ということを意味しています。
事業戦略上の必要な組織やポジションを入念に検討した上で、ふさわしい人材を配置する、という意味として考えるならば「適所適材」の順番は正しいのではないかと思います。
現実的には、人が先にありきの人材観、組織観を急に変えていくことができるかというと、難しい面もあるかと思いますが、ここでは「今後は、より戦略(事業、経営)ありきの人員配置(組織構造もですが)を考えていかなければならない、という結論にしておきたいと思います。
また、議論の機会があればと思います。
〈ついでに用語解説〉
話の流れ上、「適材適所」「適所適材」に似た概念で最近よく使われ出した言葉を確認しておきましょう。
それは「ジョブ型」「メンバーシップ型」という言葉ですね。
先日ある経営者の方から「今野さん、ジョブ型、メンバーシップ型って何?よく耳にするけど、いまさら人に聞けなくて・・」という質問をいただきました。
ジョブ型雇用、メンバーシップ型雇用と、「雇用」をつけた形で使われることが多いようです。
「メンバーシップ型」雇用とは、「人に対して仕事を割り当てる」雇用形態を言います。
インターンシップ以外にはほとんど就業経験が無い新卒者を潜在的なポテンシャルを重視して社員として雇い、ジョブローテーションによって幅広い職種を体験させ、終身雇用を前提にゼネラリストを養成するのに適した仕組みです。
いわゆる「就社」のイメージで、日本型と言ってもいい形態です。
一方、「ジョブ型」雇用とは、「仕事に対して人を割り当てる」雇用形態です。
日本でもスタートアップ企業を中心に取り入れている企業も増えていますが、どちらかといえば海外企業で主流のようです。
「職務記述書(ジョブディスクリプション)」で職務・勤務地・労働時間・報酬などを明確に定めて雇用契約を締結します。社員の年齢や勤続年数はあまり重視されず、その人自身の実力・スキル・成果が重要視されます。
「職に就く」=「就職」のイメージです。
ついでに用語解説でした。
2.人事データベース
適材適所にしても適所適材にしても、共通することは一人ひとりの社員のことをよく把握することが必要だということです。
恐らく、人事部の一人の担当者が顔と名前が一致して、把握できる人数は上限500人(必死に頑張って)というところではないでしょうか。
どうしても人事管理は、仕組みに頼らざるをえませんし、手分けして把握する体制も必要になります。
人事データベースを導入することになるわけですが、この時点で社内での人事部の評判は極端に悪くなるんですね。
人事部が社員を直接理解することを諦めて機械化した時点で、社内の全員を知っているのは人事データベースだけということになりますね。
人事部が機械任せで、社員一人ひとりを理解することを諦めているということは、社員に伝わるわけなんです。
近頃ある大企業の社員研修をやらせていただいた際のことですが、社員同士で名刺交換が行われ、なんと人事担当の方も受講者と名刺交換をされている光景を目にしました。
社員からすると「人事部は自分たちのことを理解することは諦めているし、機械的に仕事をしている」という認識になるのは仕方のないことかもしれません。
しかしながら、人事データベースは、人事部スタッフのあくまでも外部脳であって、一人ひとりの社員をよく知り、現状を理解し、将来の自分をどうしたいと思っているのかを、上司とは別に理解していることはとても重要なことです。
データベースで「作業する」人事部ではなく一人ひとりを理解し「体温の感じられる人事部」に回帰するにはどうしたらよいかは、非常に重要なテーマであると思います。
というわけで、人事データベースを完備しながらも、一人ひとりの顔が見える全社的人材マネジメントをこの先再考すべきではないかと考えます。
3.シミュレーションと効果検証
会社にとっての人事異動、人事配置について最重要なことは、先述の通り「戦略に沿っている」ということです。
前に述べたように、この他にも「人材育成」、「活性化」、「業務改善」、「人間関係」など、様々な人事異動の目的があります。
事業戦略や全体としての経営戦略などの「戦略がうまく実行できる人員配置なのか?」をはじめ、目的に照らして出来上がった人事異動の案が有効かという「検証」が重要になります。
戦略にいくつかのストーリーがあるのと同様に、人員配置にも部門からの要請を組み合わせて調整した結果としての案だけではなく、人事部が各事業の今後の事業戦略をよく理解した上で、いくつかの人員配置の案と、その体制で各事業の先行きがどうなることが考えられるかの「シミュレーション」を行わなければなりません。
人事異動の「季節」が来てから、部門のトップに「次回の人事ではどういうご要望がございますか?」とヒアリングから始めて、限られた時間の中で人数合わせや、玉突きの解決をして整えた時には、決定の役員会を迎えるという現実もあろうかと思います。
・早目の着手
・日常的に、各部門の人員配置に目を配る
ぜひお願いしたいと思います。
そして、もっと重要なことは「やりっ放し」にしないということです。
「今回の人事異動(人員の再配置)」が良かったのか悪かったのかの「効果検証」ができていない企業が多いのではないでしょうか。
また異動した後のフォロー(異動者全員に人事部が会うかどうかは別にして)が必要な場合もあろうかと思います。
この人事異動(再人員配置)のシミュレーションと効果検証は、戦略人事の重要な柱であると私は思います。
4.「少数が精鋭を作る」
人事異動の常として、各部門からの「人員不足」「人材不足」の強化要請にどう答えるかが悩みの種となります。
会社の戦略として、一気に攻める意味で集中して人材を投入する場合は別ですが、普段の場合には「安易に要望に応えない」が基本姿勢となりますね。
人員は多少枯渇している状態の方が、その状況を抜け出すにはどうしたらよいかを考える必要が生まれ、工夫が生まれるということは理解できるところです。
・この人数で仕事が回るように、業務の流れを変える
・やらなくてもよいことをやっていないかの抜本検証
・一人ひとりの能力アップ
といったことのスピードがかえって上がるというわけです。
私が初めて入社した会社の社長は、このことを「少数が精鋭をつくる」という言葉で表現していました。本当にうまいことを言うものだと感心し、まったくその通りだと腹落ちしたものです。
心理学用語に「認知的不協和」という言葉があるそうです。
認知的不協和とは、自分の選択や決定と適合しない情報が入ってくることで、心が不安定な状態になることを言うのだそうです。そして、人の心は「不安定な状態を抜け出すために、考え方を変えたり、抜け出すための行動を取ったりするもの」なのだそうです。
組織ラジオ#004「ベンチャーで働くということ」で、ベンチャーのメリットの話がありましたが、常に枯渇した状態で「少数が精鋭をつくる」という考え方「認知的不協和」の状態のほうが人が育つ可能性があるということが、その説明になるかもしれません。
ここで言いたかったことは、「人員を増やしてほしい」という要請に応えて安易に安定させてはならない、ということです。
【個人にとっての意味】
話は変わって、個人にとっての人事異動の意味です。
1.将来を見据えて仕事を経験する「キャリア」の観点
2.色々な仕事を経験して自分の中に眠っている才能を知る「可能性」の観点
3.慣れによるマンネリ化を打破する「モチベーション」の観点
4.上司・部下の関係など行き詰った関係を解消する「人間関係」の観点
会社にとっての意味が長くなりましたので、個人については一点だけ、「2.の“可能性”の観点」について、はラジオでも話したことですが、「偶然」について再掲させていただいて終わりにしたいと思います。
先日NHKEテレの「SWITCHインタビュー」という番組を観ていました。
この番組は、異業種のプロの対談番組なのですが、前半後半でお互いがインタビュー役を交代しながら、仕事への思いや姿勢やビジョンを聞き出し、共有していくというものです。
放送作家の鈴木おさむ氏と、教育実践家の中邑賢龍氏の回でした。
教育実践家の中邑賢龍氏は、発達障害などの子どもたちを集めて、色々な取り組みをしておられます。例えば、チームに2,000円を与えて北海道から九州に旅行させ、旅程で起こる色々なことを乗り越え、体験していくという企画。
この話を聞いた、鈴木おさむ氏は、「偶然」という言葉を使ってこう言いました。
「偶然こそが最大の教育なんですね。偶然こそが最大の学び」
素晴らしい言葉だと思います。
さらには・・・
「偶然って人ぞれぞれで、それが個性になる。カリキュラムの中では絶対生まれないものですね」
「個性は偶然によって形成される」
これも名言だと思いました。
中邑賢龍先生がさらに言います。
「子ども達にとっては、“なんでこんな事が起こるんだ” “なぜこういう事をするんだろう”そう思うところから、初めて学びがスタートできるんです」
鈴木おさむ氏はさらに言います。
「飛び出さないと偶然はない」
「偶然とたくさん遭遇するような人生はすてきです」
長くなりましたが、この「偶然」こそが、自分の中に眠っている才能を知る、可能性が花開く要素だと思うのです。
そう考えれば、自分の希望とは違った人事異動だとしても、予期せぬ可能性にワクワクしてくるのではないでしょうか。