「褒める」時に大切なのは「ものさし」ですよ

今野誠一のblog

「組織ラジオ」の第232回「褒めることの本質はどんな“基準”を持つかにある」のブログ版です。文字起しというわけではありませんので、内容は一致しておりません。ブログなりの記述です。ラジオで話していないことも含まれています。ぜひお読みください。

自分のものさしで褒めるのは間違い

組織変革のプロセスの意識の状態を知るためにインタビューをさせていただくことが多いんですね。

色々な質問を投げかけるわけですが、上司とのコミュニケーションについて聞くと「ダメ出し」についての話がよく出ます。

例えば、一例を言いますと『「だからお前は営業マンとしてダメなんだ」と言われちゃってます』と。

この「○○○としてダメ」という究極のダメ出しの言葉に傷ついている社員は、けっこういらっしゃるように感じますね。
こうした言葉は、上司の側に、今回の例の営業マンに関してであれば「営業マンとはこういうものだ」という自分なりの像があって出てくる言葉なんですよね。

その像というのは、長年やってきた自分の成功体験と、失敗体験から出来上がった経験上の像であるわけです。

そのあるべき「像」というものが正しいんですか?今も通用するものなんですか?って話なんですよね。

市場の環境も、自社の状況も、お客様のニーズも、何もかも変化している今、往年の名営業マンが今も通用するとは限らないし、その成功体験が部下のA君にも当てはまるとは必ずしも言えないかもしれませんね。

過去の成功体験をベースにダメ出しをする上司は、褒める時にも同じように過去の成功体験に沿ってOKだった部下の行動を褒めることになるかもしれません。ダメだったら「だからお前は○○○としてダメなんだ」と言われ、何かがうまくいいくと「OKそれでいい!」と言われる。
これを繰り返していった時にどんな部下が出来上がるでしょうか。

たいていの場合は「上司に褒められるにはどうしたらいいか」を考えて仕事するようになっていきますね。
そうでないと、「だからお前は○○としてダメなんだ」という究極のダメ出しが待っているわけですからね。

最悪の場合は、最終的に「上司の顔色をうかがって行動する」ことが当たり前のようになっていきます。
自分のものさしではなく、他人のものさしばかり気にして仕事する人になる。
これは、極端に言うとA君のビジネスマン人生を決定づけてしまう、深刻な事態を引き起こしてしまう実に罪深い行為であると、私は思うんですよね。

可能性がゼロ宣告は誰にもできない


「だからお前は○○○としてダメなんだ」という言葉は、社員教育上絶対にしてはいけない最上級クラスの身もふたもないダメ出しであると思います。

その仕事について「ものになる可能性がゼロである」という見極めは誰にもできないことだと自分は思っているからです。

会社として採用した、大器晩成かもしれない大事な社員に対して、最後通告をするような権限が一管理職に与えられているはずがないですよね。

部下の行為にダメ出しをしたり、褒めたりするものさしは3通りに絞って考えるべきではないかと考えています。

1.基礎を叩き込まれている新入社員時代の「その仕事の基本行動」というものさし
2.一人前になってから自分自身で描いた「将来のありたい姿」に基づいたものさし
3.根本的に「人間として」許されるか許されないかというものさし
の3つです。

3つ目の、「人間として」は、言うまでもないものさしとして、1.と2.について考えてみます。

新入社員時代のものさし

仕事を叩き込まれている新入社員時代(あるいは新しい仕事についてその仕事を覚えている時期)は、その仕事の(営業マンであれば営業マンとしての)基本行動をマスターしたかどうかが、ダメ出しと褒められることの分かれ道になるのは当然ですね。

新入社員がつぶれていく理由を分かりやすい順に二つ上げると「放置」と「求めるレベルの高過ぎ」があるように思います。
「放置」は論外として、メンバー時代に成績のよかった管理職ほど気を付けなくてはいけないのが「求めるレベルの高過ぎ」ではないでしょうか。しかもそれが「無意識」によるので、厄介なんですね。

「なんでそんなこともできないんだ」「俺の新入社員時代は(若い頃は)、これこれこんな風にやっていたもんだ」というありがちな台詞は、だいたいが優秀だった(あるいはたまたまうまくいった)自分の若い頃がものさしになってのものですよね。このものさしは一旦捨てて、今のチームの仕事に必要な基本行動とはどういうものかをアップデートして考えられるかどうか。そこが優秀な上司かどうかの分かれ道なのかもしれません。

スキルマップという言葉があります。その仕事に必要な具体的なスキル要件を、社員のグレード別に定義したマップのことですね。これは一旦作ることはそんなに難しくないんですが、問題は運用で、色々な変化に追いついてアップデートしていくことができずに放置され、埋もれていっている例がとても多いと思います。

スキルマップとまではいかないまでも、見習いである新入社員時代にどこまでマスターしてほしいかという最新の「基本行動」のリストは作っておくほうがよいと思います。
そうしたものさしがないと、自分自身の考えるものさしで高過ぎる要求に苦しく新入社員が増えるかもしれません。

そして、その「基本行動」を毎年地道にアップデートすることがどうしても必要です。
自分たちが体験的に持っている新入社員に必要な基本行動は、時代遅れである可能性が高いですし、一度作った「基本行動」は、あっと言う間に実情に合わない、使えないものになります。

分かりやすい例としては、今時の新入社員の基本行動には「ChatGPTを使いこなす」という基本行動が載るかもしれません。数年前にはまったく考えられなかった内容ですよね。

ベテラン社員のものさし

上司として、ベテラン社員を褒めたり、ダメ出ししたりすることは、新入社員の何倍にも難易度が上がりますね。

前述したように、組織変革のプロセスで多くの社員にインタビューをさせてもらうのですが、社員から発せられる頻度が昨今格段に増えている言葉があります。
曰く「うちの上司は考え方が古い」「うちの幹部連中は時代遅れだ」「うちの管理職には頭の中をアップデートしてほしい」という言葉です。
中には、ここには再現できないような、上司を見限っている激しい言葉を聞くこともあります。

こうした認識の部下を、自分の昔の成功体験と失敗体験でできたものさしで評価し、褒めたり、ダメ出ししたりすることは、最早諦めなくてはなりませんね。

上司のやるべきことは、「コーチ」としてものさし作りを手伝うことかもしれません。
そして、一緒に作った彼の(彼女の)ものさしを理解した上で、客観的な目で賞賛と時にはダメ出しをすることかもしれません。

一緒に作るべきものさしは、彼が(彼女が)目指す理想のプロフェッショナル像です。

上司がコーチ役となってのロング1on1で、次のような「理想のプロフェッショナルMAP」を作ってください。

①3年後(何年後かは自由)に到達していたい今の仕事でのプロ像を描く
この際に重要なのは、いくつかの切り口を設けて考えることです。例えばですが「現在のお客様から見ての・・」「未来のお客様から見ての・・」「後輩社員から見ての・・」etc

②その理想のプロが身につけているべき主な能力と仕事へのマインドを明確にする
「能力」と、「マインド」を分けて考えることが必要です。マインドとは仕事に取組む際の姿勢や考え方のことを言います。

③ ②で作った将来の理想のプロ像に必要な能力とマインドに照らして、自分を棚卸する
「能力」と「マインド」に分けて、現在の自分のGOOD(強み、有していること)とMORE(弱み、これからみにつけなくてはいけないこと)を整理(棚卸)してリストにします。

④ ③で作った棚卸内容をもとに、理想のプロ像を実現するための具体的な取組を考える
GOODを伸ばすために何をするか。MOREを解決していくために何をするかを具体的に決めます。

ここまでの①~④を、印刷した際にA3大の用紙になるレベルでデザインし、上司と部下で共有します。

ここまでやった上で、完成した「理想のプロフェッショナルMAP」を、今後の上司としての褒めたり駄目出ししたりの「ものさし」にしていきます。

・自分が決めたプロ像に相応しい行動かどうか
・プロ像を目指す取り組みを順調に進めているかどうか
を上司が、コーチとして見守り、客観的にアドバイスしていくわけです。

さて、このような取り組みを時間をかけて部下一人ひとりと行うことを「忙しい中でそんな面倒なことができるはずがないよ」と感じるか「一人ひとりに合ったマネジメントをしていくためには、そこまでやる必要があるな」と感じるか、いかがでしょうか?

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