
「異業種に学ぶ」という言葉がありますが、とても大切ですよね。1月に放映の「クローズアップ現代」で「ちゃんみな」の存在を知りました。『「私が社会を変える」Z世代を魅了する歌手“ちゃんみな”の闘い』と題したその番組では、今の時代と向き合う特異な人気アーティストという、社会現象のひとつといった扱いで、番組自体にはあまりいい印象は持ちませんでしたが、人物像から強烈なインパクトを受け、大いに興味を持ちました。
オーディション「No No Girls」
「クローズアップ現代」の中で、ちゃんみな自身がプロデュースする女性グループのオーディションが行われていることが語られていました。オーディションのネーミングは「No No Girls」。このネーミングそのものにオーディションへの並々ならぬ想いが、端的に表れていました。
オーディションのサイトの紹介文の一節です。
『プロデューサーであるちゃんみなは、見た目や声に対して「No」をつきつけられ、ガールズグループを志すもデビューすることが叶わなかった過去があります。本オーディションで書類・対面審査を通過し集まったのは、彼女と同じように「No」をつきつけられたり、自分自身を否定してきたガールズ30人たち』
『ちゃんみなだからできる指導と審査、そしてBMSGが掲げる“才能を殺さないために”のもと、参加者たちを世界で活躍できるガールズグループへと導いていきます。参加者たちの人生が表れた“声”や、NoをYesに変えていく本気の挑戦をぜひご覧ください』
この紹介文を、自分はこのオーディションの顛末を記録した動画をまとめたYouTubeを全部観てから読んだんですけどね。このまんまだったんですよ。
・「ちゃんみなだからできる指導と審査」→ 唯一無二の指導者であり、審査員です
・BMSGが掲げる“才能を殺さないために”のもと → 候補者の持っている「才能」を引き出すことに専念している
・参加者たちを世界で活躍できるガールズグループへと導いていく→ レベルに対して一切の妥協がない
・参加者たちの人生が表れた“声” → 彼女らの人生に向き合っているし、候補者たちも人生をかけている
・NoをYesに変えていく本気の挑戦 → 一人残らず、心に火がつき目覚ましい成長を遂げていく
この取組の全てを収めたYouTubeは、16本にまとめられ今でも観ることができます。
総計13時間13分47秒。ひとつの大作映画を観た気分になりますよ。
自分の考え方、生き方が揺さぶられること請け合いです。
No No Girls Episode 16本のYouTubeプレイリスト
クローズアップ現代「私が世界を変える」Z世代を魅了する歌手“ちゃんみな”の闘い
オーディションへの応募者は、国内のみならず、韓国やアメリカをはじめとした世界各国から7,000通を超える応募があったとのこと。最終審査までの変遷は、こんな具合です。
■~1次審査通過(250人)
■~2次審査通過(30人)
ちゃんみなとこのオーディションの企画会社の株式会社BMSG代表取締役兼アーティストのSKY-HIの二人を前にして、一人ひとりが「歌唱」と「ダンス」それぞれ1曲ずつを披露。
■3次審査(30人→20人)
5人一組で、課題曲6曲中の1曲をグループパフォーマンス
■3.5次審査(1人)
MAHINAのラップ特別審査で、4次審査に21人目として進出
■4次審査(21人→14人)
3人一組で、クリエイティブ審査(作詞・作曲・振付を参加者が行う)
■5次審査(14人→10人)
7人一組で疑似プロ審査(スタイリング・ヘアメイクをプロが担当)
・課題曲とクリエイティブ曲を披露
■最終審査(10人→7人)
5人一組のチーム審査とソロ審査
それぞれ、課題曲を披露
これらの全ての段階において、何しろ全権を任されているちゃんみなの候補者との向き合い方、審査の姿勢、そして候補者へのフィードバックの仕方が秀逸過ぎて、圧倒されっぱなしでした。
そのいくつかを、この後具体的に書いてみようと思います。

審査基準は3つのNo
まず、このオーディションの素晴らしいところは、審査基準が歌のうまさとダンスのうまさだけではないということ。次の「3つのNo(No FAKE/No LAZE/No HATE)」が、オーディション全体のポリシーであり、審査基準になっているんですね。これが、ちゃんみなのこれまでの人生を通して出来上がった価値観で貫かれているんですよ。
No FAKE=「本物であれ」→自己表現。
「経験や自分の視点から見えているもの、自分が本当に感じたものそして事実を伝えること」
「口パクは絶対に許さない」「歌詞は盛ってもいいけれど、嘘は書かないで」
No LAZE=「誰よりも一生懸命であれ」→自己理解。
面倒臭い作業だけれど、自分と向き合うことを怠るな。
自分の良いところだけではなく、もっとこうしなきゃ、なんでこうなんだろうと自分を徹底的に理解した人にしか出せない声がある。
No HATE=「自分に中指を立てるな」→自己肯定。
これがゴールでもある。自分の声、自分を信じる、自分を信用する。私なんてなんて思わずに一生懸命生きる。
オーディションの全体を通して、この3つのNoが貫かれいているんですよね。
中には自信のない候補者もいるんですけどね。その人に彼女はこう言うんですよ。
「それは頑張ってきた自分に対して中指を立てる行為だよ。かわいそうだよ」って。
彼女だからこそ言える一言。
決して否定しない
13時間以上のドキュメンタリーを観ていて、驚くことは、ちゃんみなが一度として候補者を「否定していない」ということです。これは、失礼な言い方にはなりますがね。26歳の若い女性にできることではないですよ。
いかに彼女が、テーマに愚直に向き合っているか。ポリシーの大切さを分かっているか、だと思うんです。
オーディションのテーマである「今までいろんなNoを言われてきた人たちを救いたい」という強い思い、考え方が彼女の候補者への向き合い方の核となっています。
後で述べますが、GOODポイントの伝え方(褒める)、ボキャブラリーが素晴らしいんですが、決して候補者を持ち上げているわけではなく、プロとして成長してもらうことへの強い思いを持っている。従って、必要な課題の指摘もシビアです。
・ちょっと雑過ぎるイメージがありました
・ずっと同じ表現だったのが気になりました
・ちょっとつめが甘いのを感じる
・普段の発言とか態度からストイックさって出る
具体的に丁寧に褒めながらも、プロとして成長していくことを心から期待し、改善点をしっかりまっすぐにきちんと伝える。今野の言い方でいう「GOOD&MORE」のバランスがとても素晴らしいと感じました。
改善点を伝えているのが、将来の成長を期待していることが候補者に伝わるので、傷つくことなく、腹落ちする。候補者は涙を流しながらも、不思議と次に向かう意欲を駆り立てられている様子が見えるんですよ。
心に響く「その人向け」の誉め言葉
候補者へのフィードバックは、ことごとく心に響いているようです。その要因は、GOODポイントを伝える語彙力にあるようです。全員にことごとく違うオリジナルな言葉で伝えていくんですよ。並みの才能ではないと唸りました。
「R&Bに革命が起きそうな歌声」
「雪みたいな声だよね」
「これが“実力の暴力”です」
「空気がガラッと変わる」
ビジネス現場の誉め言葉において、「素晴らしい」とか「いいね」とか「すごいね」といったありきたりな、ざっくりしたフィードバックだと、まったくもって逆効果ってことがありますよね。
あらためて、ボキャブラリーの豊富さは、自分のGOODを具体的に理解させ、自信をつけさせることにつながるんだと確認しました。
人間関係に関しても、「自分のことをよく見てくれている」「いい加減に扱われていない」という大いなる信頼関係につながるのだと思います。
時間軸を感じさせる温かさ
オーディションである限り、審査の段階を踏むほどに、当然落選する人が出てくるわけです。この落選した人へのメッセージ、ネガティブフィードバックにも、ちゃんみなの才能が光ります。
「才能がない」などといった無粋な表現を彼女は絶対に使いません。
彼女の表現を聞いて、私は心から驚愕しました。
「今回は間に合わないかも・・・」「もう少し時間がかかると思う」
候補者の現時点でのスキルが足りてないことを伝えているのですが、才能がないのではなく、もう少し時間がかかるだけなんだと言っている。前述した『BMSGが掲げる“才能を殺さないために”』というポリシーに見事に沿っているのです。
これらの言葉を聞いた候補者は、きっと「今回は悔しいけれど、ちゃんみなの言葉を信じて、時間をかけて花が開くまで取り組んでいこう」という気持ちになるに違いないと思います。
一人ひとりの「人生」と向き合う態度
このオーディションは、結局のところビジネスであり、効率的に才能を見出し商品として磨いていくことに投資することを考えても当たり前のところでしょうが、ちゃんみなの態度はまったく違うものでした。
一人ひとりをよく見て、秘めている可能性を心から信じて、落選者に対しても「今回は残念だったけれど、あなたはきっと大きく化ける可能性を秘めていることを私は信じている」と、真摯に伝える態度を持っていました。
最終審査で、落選した一人にかけた次のような言葉は、本気で思っていなければ伝えられない言葉なのではないかと思います。
「私がプロデュースするよりも、もっと素敵に輝ける場所があるんじゃないか。FUMINOの魅力を最大に活かせる場所が。自分がFUMINOを受け取ってしまったらFUMINOは幸せなんだろうかということも考えた」
それは、第5次審査が終わった後のことでした。
最終選考に残ったのは10名の候補者。ちゃんみなは合格者を祝福した後、最終選考がKアリーナ横浜で開催されることを発表した上に、その場にこれまでの選考で落ちてしまった20名も招き入れて、30人全員でステージに立つことを伝えたのです。
このことが何を意味するか。
オーディションという場は通常、落ちた候補者が勝ち残った候補者と同じステージに立つことはありません。
ちゃんみなは、業界関係者も集まる場で落ちた候補者にもアピールするチャンスを作ろうとしたわけです。
No No Girlsオーディション全般を通じて、最も感じられたことは「誰も諦めない」というちゃんみなの強い信念と「敗者」への温かいまなざしだと感じました。
「組織ラジオ」でも語っています
私が、盟友高野慎一さんと週に一度お届けしているポッドキャストでも「ちゃんみな」「No No Girls」について語り合っています。ぜひお聴きください。下のタイトルをクリックしていただくとお聴きいただけます。
(本ブログは、ラジオの文字起こしではありませんので、内容は一致していません)
■第233回組織ラジオ「若者たちの理想の上司“ちゃんみな”に見る理想のフィードバック」
■第234回組織ラジオ「ちゃんみな・栗山英樹・吉田松陰・孟子、人材育成の真理とは?」