ベンチャーに立ちはだかる「人数の壁」〜その真の原因と対策〜 Vol.3

高野慎一のnote
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前回は、人類学の観点から「人数の壁」の原因を探った。
「人数の壁」を乗り越えるために人間(人類)は組織を作った。ところが、組織を作っただけでは問題が解決しない。
今回は、現在私が考える「人数の壁」の核心的原因を書いてみたい。

目次

  1. 核心的原因の誤謬
  2. もうひとつの解決策「組織化」と行動の誤謬
  3. 「人数の壁」の核心的原因と解決策の要諦

1. 核心的原因の誤謬

前回紹介したダンバー教授の説を組織論に当てはめてみる。

スパン・オブ・コントロールは、ダンバー教授の同心円の中心の人数とほぼ一致する。私は前回の冒頭で「組織の大きさは情報処理能力で決まる」と紹介したが、そこに書いてあるのは「業務の進捗・改善に関する情報」だ。これらの多くはデータベース化し、可視化することによって組織としての情報処理能力を上げることが可能だ。
しかし、その「情報」にチームワークの基盤となる人間関係や、さらにその基礎である相互理解に関する情報も含まれるとしたらどうだろう。
3〜5人、5〜7人と多少の差はあるが、この人数なら毎日顔を突き合わせ同じ目標に向かって努力していれば、あまり努力を要さずチームワークを作れることが多い。そこに寄与するのは会議よりも普段の会話であり雑談だ。日頃の会話を通じて相互理解が進むから、阿吽の呼吸でチーム力を発揮する。だからこの人数のパフォーマンスが高いのだと言えるのではないだろうか。

人数が増え親密度の同心円が外側に広がり始めると、以下のような光景をよく目にする。
【現状】意思疎通が今までのようにいかなくなった
【原因】人数が増えてコミュニケーションが悪くなったから
【課題】コミュニケーション量を増やす
【具体的解決策】
創業者(リーダー)が自分の考えを繰り返し語る・Slackで情報を発信する・シャッフルランチを行う・飲み会を増やす・合宿を行う・部門間の連絡会議を行う・ミッション、ビジョンなどをポスターにして貼り出す・・・

この施策を私は否定しない。人数が増えたら是非とも必要な施策だ。
ただ、どの施策に於いても創業者(リーダー)が自分の考えを伝えようと懸命になるあまり一方通行になっていることをよく見かける。
ダンバー教授の説に拠るのであれば、それらの施策の目的は「創業者(リーダー)の考えを伝える」だけでなく「相互理解をすること」に置いたほうが良い。核心的原因は「コミュニケーションが悪くなったから」ではなく「親密度の同心円が外側に広がって相互理解が薄くなったから」だからだ。
新たにジョインしたメンバーが、創業者も同僚も自分のことを知ってくれているという状態を目指さなければ「人数の壁」は破れない。
ここに核心的原因の誤謬が見受けられる。
この誤謬こそ「人数の壁」の核心的原因だと考えている。

2. もうひとつの解決策「組織化」と行動の誤謬

人間(人類)は「人数の壁」を超えるために「組織」を編み出した。
だから多くのベンチャーが、人数が増えると中間管理職を設置する。
【現状】意思疎通が今までのようにいかなくなった
【原因】人数が増え、創業者(リーダー)が直接働きかけることが困難になったから
【課題】中間管理職を設置、組織化してレポーティングラインを作る
【具体的解決策】
組織を整える・組織共通の目標であるミッションやビジョンを整える・マネージャーを任命する・・

ところが組織を整えてもうまくいかないケースが多い。
原因を「創業者が直接働きかけることが困難になったから」に置いていると、創業者は組織を作っても中間管理職の頭越しに直接メンバーに働きかけてしまう。その気持ちは痛いほどわかる。事業に対する当事者意識は創業者が圧倒的に高いからだ。だが、中間管理職の頭越しにやってしまったのでは中間管理職はその存在意義を失う。これでは組織を作った創業者自ら組織が機能することを阻害してしまう。その結果、組織は形骸化し、崩壊していく。
捉えている原因が誤っている。真の原因は「組織内の情報量が人間(人類)の脳の情報処理能力を超えたから」なのだ。創業者(リーダー)がホモ・サピエンスなのであればもはやすべてを知り、すべてを的確に判断し、すべてに的確な指示を出すことは不可能なのだ。そして組織におけるマネジメントライン、レポーティングラインとは、「知ること、判断すること、指示を出すこと」を分担、移譲するという意味だ。移譲できなければ組織は機能しない。

組織を整えたら、創業者もマネージャーもメンバーも組織において期待される行動、あるべき行動へと自らの行動を変容させなければ、いくら組織を作ってもそれは表面だけで、以前と何も変わらないのだ。だから組織における行動を学ぶことがとても重要だ。このトランジションがうまくいっていないケースが多くみられる。
これが私が考えるもうひとつの「人数の壁」の核心的原因だ。

3. 「人数の壁」の核心的原因と解決策の要諦

以上から、私はこのように考えている。
【現状】意思疎通が今までのようにいかなくなった
【原因】
①人数が増え、親密度の同心円が外側に広がったことにより相互理解・相互信頼のレベルが低下しているから
②人数が増えたことにより、組織内の情報量が人間(人類)の情報処理能力を超えたから
【課題】
①相互理解を目的としてコミュニケーション量を増やす
②中間管理職を設置、レポーティングラインを明確にして組織化する
③経営チーム、マネージャー層、メンバーがこぞって組織人へのトランジションを果たすよう促す
【具体的解決策】
①全体会の充実、Slackの工夫、シャッフルランチ、飲み会の設定、合宿などコミュニケーション機会を増やすが、目的を相互理解において設計する
②できる限りシンプルなレポーティングラインで組織を設計する
③組織におけるマネジメント層(創業者、経営チームを含む)が組織の本質、組織設計の基本、マネジメント行動について学ぶ機会を設け、行動変容を促す。メンバーについても、組織における行動を学び行動変容する

さて、組織化は有効な手段ではあるが、これには副作用がある。
組織には油断をすると、上を見て仕事をする社員、指示待ち社員を作り、自主性・主体性を奪う構造がある。だからただ組織を作ってしまうと、次に来るのは「社員に主体性を持たせたい」という研修の依頼だ。

次回以降、その副作用を抑えた活性化した組織についてお話ししたい。

(次回に続く)

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